「幕開け。」
曲が終わるたびに、絶え間なくコールが湧く。
ツヨシー! ツヨシー! ツヨシー!
長渕剛のライブは、その時空に身を置くと、体中の細胞からほとばしり出てしまうような、熱のぶつけあいだ。
長渕が歌えば歌い、叫べば叫び、拳を振り上げれば拳が振り上がる。
熱を受けたバンドも、驚くほど息のあった演奏で、長渕の歌の世界に彩りを描く。
ザ・フーのツアーのためやむなく不参加となったローレン・ゴールド(キーボード)の代わりに、今年は、エアロ・スミスのツアーでも活躍しているラス・アーウィンが加わり、去年のアリーナツアーを成功させた最強の日米混合バンドが、またも目の前で痺れる音を弾き出す。
そして、曲が終わればまたコールが湧くのだ。
じりじりと熱く膨らんでいく空気の中で重なりあい、交錯する、たくましいエール。
それは、心にうごめく言葉を鋭利な感性で生きたままえぐり出し、苦しみを、悲しみを、勇気を、愛を、希望を、強く熱くまっすぐに歌い放ってきた長渕と、その歌たちに何度も力をもらってきた観客との信頼の証でもある。
アンコールの2曲目を終え、熱気の塊の中、あちこちで火柱のように燃え上がるツヨシコールを笑顔で受け止め、ドラムスの矢野に目で合図を送る。スティックのカウントに続き、2台のギターがキレのある4ビートを刻み始めると、白いシャツを汗でぐっしょりと濡らした長渕が語り出した。
今日、この歌をしっかり覚えて帰ってほしい。
みんなと一緒に富士にのぼるために、新しい歌を書いた。
「富士の国」という歌だ!
ウォォォーッ!
驚きと喜びの絶叫が湧き上がる。スクリーンに赤く昇った太陽を背にして矢野が腕を振り下ろし、スネアの音がスパンと空気を割る。
長渕が客席に言葉を突き刺してくる。
けなげな少女の瞳が 今日も銃弾に撃ちぬかれていく
岸に倒れた名もない兵士は 母の名を叫んで死んだという
あぁアジアの隅に追いやられてきた しなびきったこの島国でも
魂までちぎれたりはしない 決して絶望に屈服などしてはいけない
真っ逆さまに空を突き刺し 犠牲になった命の破片が舞う
俺たちは憤りにむせかえり 屈辱の血ヘドを吐く
あぁそれでも凍える冬を貫き 富士の国を愛してきた
生まれ育ったこの真っ赤な夕暮れに みじめさも恥もあるものか
赤と白の印象的なライティングが、「富士の国」を染め、楽器のグルーブは激流になり、静流になり、時空を流れていく。
このツアーの前に「なんとしても作り上げる」と心に決め、何度も自分と向き合いながらようやく生み落としたこの歌は、まぎれもなく日本で生き抜く民衆の、命の強さと気高さを叫ぶ歌だ。
国旗が生まれた 日本の頂(テッペン)に陽よ昇れ!
霊峰富士の国の頂に 俺たちは生まれてきたんだ
国旗がたなびく 日本の頂(テッペン)に陽よ昇れ!
霊峰富士の国の頂に 俺たちは生まれてきたんだ
長渕が体をよじらせ全力で歌い放つ言葉の数々に、泣きそうになる。
脈々と受け継がれてきた自分の命、なおも綿々とつながっていく命を感じるほど、祖国・日本への、愛と不信、ふたつの対立した思いが宿る。
腹もたつが、何もできない自分にもどかしくもなる。
「これは決意表明の歌だ。平和を願い、もがき踏ん張りながら必死に生きている俺たちの姿に、日本は本当に気づいているんだろうか? 俺たちの思いは届いているんだろうか? 考えても拭えない疑問や矛盾を、仲間たちと一緒に、霊峰富士に向かって叫びたい――そんな気持ちで作った歌を、ツアー初日から、全力でみんなにぶつけていく」
この歌が完成したとき、長渕はそう話していた。
その長渕のすさまじい覚悟が伝わっていくからか、観客は真剣に歌を聴いている。
歌の言葉を受け止め拳を振り上げるものも、じっと歌詞に聴き入るものもいる。
長渕の歌が、それぞれ、ひとりひとりの「富士の国」になっていく。
そして、いつのまにか「ひとつ」になる!
歌い終え、長渕が叫んだ。
命がけでやるからな!
今年の夏だ!
これが最後のオールナイトだ!
8月22日、約束の地へ集まれ!
そう、いよいよ、「ROAD TO FUJI HALL TOUR 2015」が幕を開けた。
このツアーは、霊峰富士へと続く道。
新たな伝説の序章。
初日、市原で、その1ページが、力強くめくられた。
(文・藤本真)
▶Tour Member
Peter Thorn(ピーター・ソーン) / Guitar
Jon Button(ジョン・バトン) / Bass
Russ Irwin(ラス・アーウィン) / Keyboards
ichiro / Guitar
Kazunari Yano(矢野一成) / Drums
Yoji Hiruta(昼田洋二) / Sax
Yoko Kubota(久保田陽子) / Chorus
Saeko Suzuki(鈴木佐江子) / Chorus
MAYUKA / Chorus
MAYUKA / Chorus
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